腕相撲熱中人


今回の熱中人
腕相撲 四十八手・吉本陽一さん

神聖な土俵
神聖な土俵

「誘い四方大廻し」
「神田地獄」

放課後の校舎に響き渡る。男のうなり声。
「始め!」「てぃやー」
腕相撲。
彼らは日本腕相撲協会のメンバー。
ここが、本部道場だ。

相撲であるからには、これは土俵である。土俵の上なら肘を自由に動かせるのが、
大きな特徴。足腰も動いていい。その上で、相手の手の甲をつけたら勝ち。
競技を通じて、質実剛健な人間形成を目的とする。
「道場訓、道場は神聖にして自己完成の場である。
一、 スポーツは礼を以(も)って始り、礼にて終る。礼は相手並に自己を尊敬する
心の表現であり、人間の最も麗しい姿である」

柔よく剛を制す
柔よく剛を制す

吉本陽一は160センチ、55キロ。
小柄だが目立って強い。
自分よりパワーのある相手には、肘を使っ
て上手にかわし、疲れが見えたところで、
一気に攻める。
攻撃も多彩。フィニッシュまで技を四手
入れた。
手前に引き、真横へスライドして、また
戻す。最後のひと押しで勝負あり。
柔よく剛を制す。
「本気でした?」(番組スタッフ)
「もちろんそうです。もちろん本気です」(対戦相手の方)
力こぶはすごいが、パワーだけでは勝てない。
「技とスピードですね。あとは、相手の弱い所を攻めるのが一番大事」
さらにつけ加えるなら、吉本は、しぶとい。大抵の相手は、根負けする。
「まだ本気じゃない?」
「まだまだ、これからです。2、3割ですかね」

腕相撲の神様
腕相撲の神様

吉本の自宅。
階段の上に鉄棒がある。妻には内緒で、
大工に取り付けさせた。
入門は12歳。それ以来43年。
元々は、か弱い少年だった。
息子の怜王も、12歳で入門した。
(腕の太さを測って)「35センチジャスト。
すごいですよ。まだ絶対かなわないです」
(息子・怜王さん)
腕相撲に熱中する2人を、家族も応援している。
日本腕相撲協会の創立は、昭和3年。84年の歴史と伝統を誇る。
“腕相撲の神様”と呼ばれた創立者・山本哲は、生涯現役を続け、102歳で亡く
なった。
「ずっとかなわなかったです。100歳まで我々と腕相撲をやってました。病院に
入院した時でも、ベッドの上で腕相撲をやってみたら、全然弱ってなくて、目指す
ところは、私も腕相撲を通して 元気であれたらなと思います」

秘伝の書
秘伝の書

山本は『秘伝の書』を残した。
そこにあるのは、弟子たちと共に編み出し
た、腕相撲・四十八手=B
技は「引く・つる・巻く・押す」の4つの
動きが基本。
「誘い四方大廻し」
相手の攻撃を、四方向に引き回して、
かわしつつ倒す。

「神田地獄」
息をもつかせぬ連続攻撃で追いつめる。その昔、神田という会員が得意にした
ので、その名がついた。
「かつぎ起こし」
これは、一発逆転の技。
相手の腕の下に、自分の腕を入れてブロックするのがミソ。

左腕でも頂点へ
左腕でも頂点へ

右手では、何度も優勝経験がある吉本。
だが、左だとそうはいかない。
望月一、69歳。腕は細いのに、むちゃく
ちゃ強い。
「見てこれ、こんな太い。こっちはこんな
細い」(望月さん)
人呼んで“怪物左腕”。びくともしない。
「強いっす。ハァハァ」(怜王さん)

「めちゃくちゃ強いですね?」(番組スタッフ)
「そんな強くないよ」(望月さん)
吉本は、数年前から左のトレーニングを積んできた。
「ずっとかなわなかった、勝てなかった望月さんに、来週は左腕のチャレンジを
したいと思います。よろしくお願いします」
望月と吉本。師匠の下で40年間、切磋琢磨した仲である。

勝利へ向けて
勝利へ向けて

望月の強さをビデオで分析する。
「しっかり巻いてるなあ。
望月さんの場合は、ここがしっかり利いて
る。相手のここに、ギュッと。だから、
ここはもう崩れない」
望月は、強烈な握力で相手の手首をロック
する。ひとたびロックされたら、まず逃げ
られない。

「なんとか頑張って、最後まであきらめないで、いろんな技を駆使して、
そのへんをしのげば持久力で勝ると思うので」
望月の握力をもってしても、ロックできない手首が欲しい。

極秘トレーニング
極秘トレーニング

吉本が極秘トレーニングを開始した。
「お願いします」
ウェイクボード。モーターボートに引っ張
られながら、水の上を滑る。トレーニング
の一貫として、7年前から始めた。
左腕1本に持ち替えて、手首を鍛える。
「いい練習になりました。左腕の。
ありがとうございました」

怪物左腕は、自宅を動かない。鉄アレイを黙々と上げる。
「この関節が、年をとるとカクカクいう。握りが弱くなる」
かつては、あんこを作る職人だった。
「まず負けるってことは考えられないね。俺が負けたら引退だよ、ほんと」

決戦まであと3日。しぶとく自分を追い込む吉本。

いざ決戦へ
いざ決戦へ

その日がやってきた。
「予想は?」(番組スタッフ)
「望月さんが勝つでしょうね」(会員の方)
「7対3で望月さんだと思う」(会員の方)
試合は、先に2本取った方が勝ち。
(1本目)
「構えて、よーい、始め!」
いきなり攻め込む望月。

吉本、かろうじて残った。
「1本!」
押さえ込まれて粘れない。

力を出し切る
力を出し切る

(2本目)
「よーい、始め!」
またしても、望月の速攻。一気に決めに
かかる。
だが、ここは吉本粘る。
手がほどけたので、仕切り直し。
なんとか、持久戦に持ち込みたい。
「よーい、始め!」

「1本」
吉本、完敗。
「力ついてきたよ」(望月さん)
「参りました」
清々しい奴らよのう。
「なんとか力を出し切って、相手を疲れさせようと思ったんですけどね。
1枚うわてでした」
ちなみに吉本は、指圧・整体院を営んでいる。仕事の合間にもトレーニングは
欠かさない。お客には、腕のいい先生と評判である。